圏9研究所 工作室

圏9研究所の開発情報資料など

鉛蓄電池再生(サルフェーション除去装置)

PIC16FのPWMアプリケーション

1.経緯
 最近の車はアイドリングストップとかでバッテリーの負担が増えたため容量アップ等々で高価になり寿命も縮まっているらしい
 ネットで調べるとバッテリーを再生延命するアクセサリーがあるようなので作ってみた

2.概略
 鉛蓄電池(バッテリー)劣化の一因であるサルフェーションを除去する装置

3.先生とお手本
1)先生
(1) Taricco  US Patent
 5783929 (特表2001-517419) または 6078166
 バッテリーの再充電装置及び再充電方法

(2)株式会社JSV

jsv-univ.co.jp

 サルフェーション除去装置に関する特許がありバッテリー再生のメカニズムについてご教授いただきます

2)お手本
 趣味の工作

syumi-no-kousaku.sakura.ne.jp

10年以上にわたって効果確認されていてデータの裏付けもあり最も信頼できる情報

4.バッテリー劣化要因と再生のメカニズムと設計ポイント
1)劣化要因
 バッテリー劣化要因は
 ・電極の腐食、破損
 ・放電により電極面に凝集する結晶化硫酸鉛(サルフェーション)による充放電の阻害

2)再生方法
 サルフェーションを除去する

3)再生のメカニズム
(1)サルフェーション除去回路 新日本無線株式会社の特許広報従来例から引用
 ・FET-G = ‘L’  C4を充電
 ・FET-G -> ‘H’  L1でC4を放電
 ・FET-G -> ‘L’  L1逆起電力発生
 ・L1->D1->バッテリー->C4->L1 の経路でバッテリーにパルス印加
  印加パルスでサルフェーションが除去される

公開特許広報
特開2010-176991(P2010-176991A)

(2)共振により除去する説:Taricco US Patent

(11)【公表番号】特表2001−517419(P2001−517419A)
(54)【発明の名称】バッテリーの再充電装置および再充電方法
(31)【優先権主張番号】08/835,034
(33)【優先権主張国】米国(US)

(57)【要約】
バッテリー(12)を再充電するための装置(10)および方法。本発明は、高周波周波数、好ましくはバッテリー(12)の自然共振周波数に一致する周波数で発振する変調信号によってレール電圧を変調することを含む。変調されたレール電圧はバッテリー(12)に供給されてデバイスを充電する。装置は、バッテリー(12)の自然共振周波数の変化に追従するように、変調周波数をシフトするフォロワ回路(24)を備える。

発明の詳細な説明

好ましい実施例に
おいては、その変調周波数は10,000ヘルツ以上の高周波数帯である。しか
し、10から40,000,000ヘルツの間の周波数帯で満足のいく結果が得
られることが実証された。鉛-酸バッテリーを再充電する場合、0.215、0
.312および0.612、1.825並びに1.875メガヘルツの周波数で
で最良の結果が得られることがわかった。

 例えば第3図はバッテリーから計測された出力信号を示している。キャメルハ
ンプ(camel hump)又はジッターを生成する変調周波数がバッテリー
12を効率的に再充電することが明らかになった。したがって、コントローラー
28はその波形を解析してキャメルハンプおよび/又はジッターが存在するかを
決定し、次いでその好ましい波形特性を生成する変調信号に固定することができる。

【考察】
・バッテリーの何が共振するのか不明
・バッテリー電極の共振であれば周波数が高すぎる
・硫黄分子が共振する説もあるが分子が共振するには周波数が低すぎる
・他の特許広報によると結晶化硫酸鉛が共振する説もあるが共振周波数は結晶の厚さ形状によってもっと広範囲になると思われる
・このため付随的な効果があるかもしれないが主体的な要因とは思えない

(3)冷熱歪による説:株式会社JSV の特許広報

【特許番号】特許第4565362号(P4565362)
【発明の名称】鉛蓄電池の電気処理による蓄電能力劣化防止と再生装置

【発明が解決しようとする課題】 【0005】 例えば、上記文献は共通に1MHz以下の高電圧パルスで電気機械的衝撃波を想定して 硫酸鉛微結晶の破壊を目指している。ここでは、高電圧を用いるほど硫酸鉛除去効果は大 きいと考えられている。 【0006】 しかしながら、この場合、電気機械的衝撃波による硫酸鉛微結晶の破壊除去法は電極表 面が硫酸鉛でまだらに絶縁されている状況下において、絶縁面である硫酸鉛結晶面に電界は集中せず、硫酸鉛絶縁体で覆われていない流れやすい伝導電極面に電流は集中する。よ って、電気機械的衝撃波の破壊は起き難いと考えられる。 【0007】 本発明は上述の問題を鑑みてなされたものであり、MHz領域にある硫酸鉛誘電緩和損加熱を用いることで硫酸鉛絶縁体表面に電流を集中させ、硫酸鉛を選択的に分解する装置 を提供することを目的とする。

【課題を解決するための手段】 【0008】 硫酸鉛絶縁体の誘電緩和損により発生する発熱で硫酸鉛結晶を熱機械的に歪ませ、結晶 に微細割れ目を形成し、この結果電気導通化し充電電流により電気化学分解し、正極に酸 化鉛、負極に金属鉛を生成するものであり、硫酸鉛誘電損失ピーク周波数約10MHz近辺で、硫酸鉛絶縁体で覆われていない電極表面における電気伝導度は小さい。なぜならば 金属電極面の電気伝導度はイオン拡散電流が主で、イオン電流の応答速度が数十kHz以下である為、金属電極面の電気伝導度は小さい。MHz領域での希硫酸電解液は分極誘電率が下がる為、希硫酸電解液に比較して、MHz領域では誘電率の高い硫酸鉛絶縁体膜の表面に電流は集中する。 

【発明の効果】 【0009】 本発明によって、硫酸鉛絶縁体結晶膜が選択され、熱機械的に微細分解されるので、セ ル当たり2Vピークツーピークの高周波の低電圧低電流によって硫酸鉛結晶膜の酸化と還 元分解が可能になり、従来の高電圧高電流パルス再生による電極板の発熱変形が招く電極 間ショートを引き起こさずに鉛蓄電池を再生することが可能となる。

【考察】
・逆起電力パルス印加によるバッテーリー電極間の電圧波形は電気伝導度最小周波数帯と一致する
 今回作った回路接続時のバッテリー電圧波形による
・このため逆起電力パルスに含まれる電気伝導度最小周波数帯域の電流がバッテリーを通過していると思われる
・この通過電流で結晶化硫酸鉛に熱ストレスが加われば除去効果が期待できる
・お手本によると逆起電力パルスが通過するダイオードD1:ER504(50us,1.2KHz)の表面温度は80℃
 ER504のVF=1.25V、バッテリー12VとするとバッテリーにはダイオードD1の10倍程度の電力が印加されている
・電気伝導度最小周波数帯の周波数で結晶化硫酸鉛の通電しやすい部分に順次選択集中通電されれば十分に熱ストレスを印加できてサルフェーションを除去することが期待できる
・株式会社JSVのホームページ技術紹介で既存パルス法商品では電力がまったく不足していると指摘されているがお手本の回路では効果が確認されていることもあり必ずしも不足しているとは言えない

4)再生装置の設計ポイントと排反事項
(1)設計要件
 ・10MHz程度(或いはその周波数成分を十分に含む)パルスを印加し結晶化硫酸鉛に冷熱歪を加えて除去する
 ・車載用のバッテリーをターゲットとしてバッテリー交換延命を目的とする
  エンジン始動できるレベルの回復でよく100%再生しなくてもいい

(2)排反事項と注意点
 ・印加パルスの周波数が数十kHz以下で電極面に通電しやすくなるため低い周波数で過大な電圧になると過充電となり電極を傷める
  対応:10MHz程度のパルスが鈍らないような回路構成にする
     波形が鈍っても100kHz以上になるようduty(周波数)を選定しておく
     お手本のデータを参考に必要以上にパルス電圧を強くしない
        念のため充電併用する場合はフローティング充電(13.5〜13.8V程度)レベルに留める

 ・印加パルスにより車載機器への影響が心配される
  対応:車載機器は ±100V程度以上のパルスに耐えられるので問題なし
        逆に温度振動等も含めた再生装置側へのストレスが心配されるためエンジン起動中には使用しない

5)解説・設計ポイント
 ・従来の特許等では印加パルスによる共振で結晶化硫酸鉛が除去される説となっている
 ・しかし、データの裏付けのある熱歪説が正しく従来は副次的に発生していた高調波による熱歪で除去されているように思われる
 ・必要以上にパルスを強くしたり高調波が鈍ったりすると電極を痛め逆効果になるため十分に注意する
  お手本ページに書いてある通りネット上の情報は間違いが多いようでよく精査しないと逆効果になる
 ・車載機器評価参考資料
  ISO 7637-2 & ISO 7637-3 の概要
   車載用機器のEMI試験(エミッション試験)の「過渡エミッション測定(過渡サージ試験)」に属する規格

https://www.emc-ohtama.jp/emc/doc/iso7637-explained.pdf

5.回路
1)回路図

2)主要部品
 秋月 [I-10889] PICマイコン PIC16F18313-I/P
 秋月 [I-08750] 低損失レギュレーター LP2950L-5.0V 5V100mA
 秋月 [I-06250] 抵抗内蔵5mmLED 12V(5V省電力版) 赤色 640nm OSR6LU5B64A-12V(10個入)
 秋月 [P-12630] リセッタブルヒューズ 3A トリップ電流:6A 耐圧:30V MF-R300
 秋月 [P-16015] インダクター 1mH0.9A SRC1317
 秋月 [P-04080] トロイダルコイル 200μH9A
 秋月 [I-02414] NchパワーMOSFET 60V25A 2SK2232
 秋月 [I-07788] ショットキーバリアダイオード 40V3A SB340LS
 秋月 [P-00468] 積層セラミックコンデンサー 47μF25V 5mm

3)回路図について
(1)お手本との相違点
 ・とりあえずお手本に準じて作ってみたところ上手く動いたのでお手本とほぼ同じ
  お手本はよくできています
 ・D1:1N5822は10個セットしかなかったのでSB340LSに変更
 ・12V電圧計測分圧抵抗:変換計算が簡単になるのでR103 4個に変更

(2)新日本無線株式会社の特許広報従来例との相違点
 ・発振回路 PIC16Fに変更
  LED制御や電圧計測をしないのであればコードを書かなくてもMCCでPWM設定するだけで動作する
  555を使うと部品代が安価になる
 ・発振回路 スピードアップ回路なし
  必要であればソフトで調整
 ・発振回路電源取出し お手本に合わせた

(3)電源保護回路
 ・リセッタブルヒューズのみ
  通常は逆接続保護ダイオードを入れるがバッテリー接続に気を付けてこのまま使用する
 ・次回作る機会があれば上記内容を折り込んだ上でパルスを調整する

6.ソフト
1)ソフト仕様
 入力
  12V電圧計測
    VREF    4.096V
    計測換算    16mV/ADC
 出力
    DESUL    PWM 2kHz
            ON-Duty 0.4%(2μs)
    LED        12VB電圧により
             0〜11.8V        消灯
               〜12.6V        点滅(4段階)
             12.6Vオーバー    点灯

2)PIC16Fリソース MCCで設定

3)ソフトについて
(1)パルス仕様の選定
 お手本の最新仕様と思われる値に設定
 設計要件である 波形が鈍っても100kHz以上 となっている

7.実装
 秋月 [P-12472] プラスチックケース SW-85B に収納
 ケース容量が十分あるのでABSプラスチックケース
 温度範囲上限+60℃のためエンジン停止厳守

実装とバッテリー電圧波形

8.仕様まとめ
1)仕様一覧

区分

項目

仕様

選定

発振

PWMパルス

2kHz On-duty 0.4%(2μs)

・バッテリー印加パルス100kHz以上

・お手本最新仕様に準ずる

FETゲート回路

スピードアップ回路なし

・必要があればソフトで調整

システムクロック

2MHz

・エンジン停止、充電と併用しないため消費電流を下げる

パルス出力

回路仕様

回路図による

・お手本仕様に準ずる

D1は入手性によりSB340LSに変更

保護回路

過電流保護

MF-R300

通電3A トリップ6A(30A 1sec)

・お手本仕様に準ずる

 トリップ電流が大きいので部品が焼損しないレベルに抑える場合は通電0.5A〜1A程度の仕様に変更する

逆接続保護

なし

・お手本仕様に準ずる

 パルス印加経路にダイオードを入れるとパルスが止められるため必要があればC4FETGNDラインにダイオードを入れる

2)注意事項等まとめ
・配線およびレイアウトは10MHz程度のパルスが鈍らないよう留意する
 バッテリーへの接続は最短で接触抵抗を小さく
・念のため充電併用する場合はフローティング充電(13.5〜13.8V程度)レベルに留める
・エンジン起動中には使用しない
・次回作る場合は過電流保護、逆接続保護回路を改良する

効果については 24時間/月 接続で継続確認中